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【転籍のホント】「1年でいなくなる」は防げるか?地方企業の闘い方

【転籍のホント】「1年でいなくなる」は防げるか?地方企業の闘い方

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 新しく創設される「育成就労制度」において、多くの経営者や人事担当者が最も頭を悩ませているのが「転籍(転職)」の解禁です。これまでの技能実習制度では、原則として実習先の変更は認められず、企業側はある種「守られた」環境にありました。

 しかし、令和6年6月に公布された新法により、制度の目的は「国際貢献」から「人材の育成・確保」へと大きく舵を切り、これに伴い、一定の条件下で本人の意向による転籍が認められることになったのです。

 「1年経ったら都会へ逃げられてしまう」という不安は、地方の採用現場において極めて切実なものです。しかし、制度を細かく読み解くと、決して「自由放任」な転職が認められたわけではありません。地方企業がこの変化を乗り切り、むしろ優秀な人材を定着させるための「戦略」を詳しく解説します。

1. そもそも「転籍」は何が変わる?

育成就労制度における転籍のルールは、一言で言えば「条件付きの自由化」です。

1-1:「原則1年」という期間の考え方

 新制度では、同じ企業で「1年」就労すれば、本人の希望で別の企業へ移ることが可能になります 。ただし、この「1年」という期間は、分野(業種)ごとの運用方針によって、1年から2年の範囲内で設定されることになっています。
 また、無制限にどこへでも行けるわけではなく、あくまで「同一の業務区分(職種)」の中での移動に限定されている点が重要です。例えば、繊維業で入国した人が、1年経ったからといって飲食業や建設業に移ることはできません。

転籍制限・上乗せ基準

1-2:本人に課される「試験合格」という高い壁

 ここが最も重要なポイントですが、転籍は「誰でも・いつでも」できるわけではありません。本人の意向で転籍を希望する場合、以下の2つの条件のクリアが求められます。

  • ・日本語能力試験:A2.1相当以上に合格していること
  • ・技能検定:基礎級 or 育成就労評価試験:初級 に合格していること

 つまり、日々の仕事に真面目に取り組み、日本語の学習を怠らなかった優秀な人材にのみ与えられる「切符」なのです。「言葉も覚えず、仕事も不真面目だが、給料が高いところへ行きたい」という身勝手な転籍は、制度上認められません。

1-3:「やむを得ない事情」は別枠

 一方で、企業の倒産や、受け入れ側の人権侵害、法令違反など「本人の責任ではない理由」がある場合は、就労期間にかかわらず転籍が認められます。これは労働者としての権利を守るための当然の措置と言えます。

 

2. 都市部への流出を食い止める「3つのブレーキ」

 「都会の会社が、高い給与を提示して地方から一気に引き抜くのではないか」という懸念に対し、政府は制度的な「ブレーキ」を複数用意しています。

2-1:転籍枠(人数制限)の存在

 都会の指定区域外の企業が、地方から際限なく人材を吸い上げることはできません。転籍を受け入れる側の企業には「転籍者受入枠」という人数の上限が設けられます。
 具体的には、その企業の在籍する育成就労外国人の人数に応じた制限(1/6以下)が想定されており、特定の企業が大量の転籍者だけで現場を回すような運用は防がれる仕組みです 。

都市部:指定区域

※指定区域
東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、愛知県、大阪府、京都府、兵庫県以外の道県と、この8都府県のうちの一部の地域。

2-2:初期費用の分担による経済的調整

 地方企業にとって最大の懸念は、「多額のコストをかけて採用・入国させた人材が、短期間で他社に引き抜かれ、採用費用が掛け捨てになること」です。これを是正するため、転籍を希望する「本人」ではなく、「転籍先の企業」が、転籍元企業が負担した初期コスト(送り出し手数料や渡航費など)を、残りの就労期間に応じて分担・精算する仕組みが導入されます。
 この費用の支払いが適切に行われることが、転籍後の「育成就労計画」が認定されるための必須条件となります。つまり、費用分担が合意・実行されない限り、法的に転籍は成立しません。

※ただし、企業側の法令違反や人権侵害など「やむを得ない事情」による転籍の場合は、この費用精算の対象外(転籍元企業は請求できない)となるため注意が必要です。

費用負担の按分率
※上図のように転籍元での就労期間に応じた按分率を掛けた金額を、転籍先企業が負担することが想定されている。

2-3:民間の人材紹介会社の介入禁止

 育成就労者の転籍において、民間の有料職業紹介事業者が介入することは禁止です。転籍のサポートを行うのは、公共職業安定所(ハローワーク)や、監理支援機関、外国人育成就労機構などに限られます。これにより、紹介手数料目的で外国人に転職を勧奨するような「引き抜き工作」が横行するリスクを排除しています。

 

3. 「選ばれる地方企業」になるための具体策

制度で守られるだけでなく、自ら「離れたくない会社」になることが、最も確実な人手不足対策です。

日本地図_移動

3-1:地方ならではの「実質的な豊かさ」を可視化する

 都会の給与額面だけで比較すると、地方は不利に見えます。しかし、地方には「家賃が安い」「自炊がしやすく食費が抑えられる」「貯金がしやすい」という強力なメリットがあります。
 採用段階から、どちらが手元にお金が残るかをシミュレーションして提示してあげることが、「暮らしやすさ」となり、外国人への安心感につながります。
※厚生労働省「賃金構造基本統計調査」などの調べでは、物価は、数%から10%以上の差が出ることが示されています。

貯金

3-2:「特定技能」へのスムーズな移行を約束する

 育成就労の3年間はあくまで「育成期間」です。彼らの真の目的は、その後の「特定技能1号(5年間)」、更新制限のない「特定技能2号」へとステップアップすることにあります。「うちの会社なら、3年後に特定技能へスムーズに切り替えられる体制がある」と長期的なキャリアパスを提示できる企業は、本人の「ここで頑張ろう」という意欲を引き出すことができます。

キャリアパス

3-3:コミュニケーションと「心の定着」

 転籍を希望する最大の理由が、実は給与ではなく「人間関係」や「孤独感」であることも少なくありません。地域のコミュニティへの参加を促したり、定期的な面談で悩みを聞く体制を作ったりすることで、「この社長・この仲間のために働きたい」という心理的な繋がりを作ることが、最強の流出防止策となります。

コミュニケーション

 

4. まとめ:制度変更を「質の高い採用」チャンスに変える

 「転籍ができるようになる」という事実は、一見すると企業にとってリスクがあるように感じられるかもしれません。しかし、これは「良い待遇と環境を整える企業に、意欲の高い人材が集まる」という健全な競争原理が導入されたことを意味します。

 これからの外国人採用は、「安価な労働力の確保」ではなく、「共に成長するパートナーの獲得」へと意識をアップデートしなければなりません。制度のルールを正しく理解し、準備を進める企業こそが、次世代の「選ばれる企業」として生き残っていくのです。

 

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